水ヤスリを使って簡単に岩石薄片を作る方法
水ヤスリを使って簡単に岩石薄片を作る方法
公開:1996年11月5日
山形大学教育学部理科教育講座地学研究室
大友幸子・川辺孝幸
水ヤスリを使って,特に専用の道具を用いないで岩石薄片を手軽に作成する
方法について紹介します.
山形大学教育学部理科教育講座地学研究室では,現在,小学校課程必修の理
科の授業および中学校理科専攻の基礎地学実験で,それぞれ,60人×4クラス
と30人の,計270人の学生を対象におこなっています.
水やすりをつかって薄片を作成する方法については、国立科学博物館地学研
究部の斉藤靖二さんにご教示いただきました。斉藤さんの方法については、千
葉とき子・斉藤靖二著「かわらの小石の図鑑」東海大学出版会(ISBN4-486-01
366-2 C1644 2575円)のp.146にものっています。この本は河原の石などの身
近な石を観察するのに絶好の図鑑で、1個の石を肉眼で見たようす・水やすり
でみがいたようす・石の薄片の写真・偏光顕微鏡で見た写真とともに観察結果
が見開き1ページにまとめてあります。
また博覧会などで使われる偏光めがねを薄片の簡易観察用の偏光板として使
うことは、宇留野勝敏さん(元東北学院つつじヶ丘高校)にご教示いただき、
また授業で使うために偏光めがねをたくさんゆずっていただきました。
Update:1996/11/15
《用意するもの》
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岩石サンプル
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80番と400番の水ヤスリ(写真参照)
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ホットプレート.家庭用のホットプレートが安くて便利.最近の焼き肉用の凸凹した高価なものは不可.なるべく安い物,または昔の浅くて平らなホットプレートの方が使いやすい(作り方4,6を参照).
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スライドグラス
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6時間〜12時間程度の長時間固化の2液式エポキシ樹脂(5分間固化より遅い方がいい.ホットプレート100度くらいでつかうと,10分くらいで固化します).ホットプレートがない場合には,短時間(5分-3分)硬化タイプのものを使う.
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無色透明のマニキュア
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水を入れるお椀(カップラーメンのカップ等でよい)
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ラベル(紙片を糊で貼ってもよい)
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偏光顕微鏡または偏光版(写真のような偏光メガネでよい)
《作り方》
1.岩石チップを作る
まず,薄片を作成する石をハンマーで割ってできた,指先程度の大きさで,厚さが1〜2mm位のかけらを拾いす.岩石カッターが使える場合には,もちろん数mm〜1cm四方で数mmの厚さに切り出します.右の写真は,カッターで切り出したものです.
2.チップの片面を80番の水ヤスリで平らに磨く
水を付けながら,まず80番の水ヤスリの上で根気よく平らになるまで磨きます.今磨いている面をスライドガラスに貼り付けますから,反対側は磨く必要はありません.
磨く時,手首を軸に回転させてチップをつかんだ指先を動かしてしまうと,チップの研磨面は,平面にならずに凸面になってしまい,スライドガラスに貼り付けた後,反対側から薄くしていくときに,周りから無くなってしまうことになります.ですから,慎重・かつ力強く指先を水平に動かして,すり減らします.
3.80番の水ヤスリで滑らかな面になるように磨く
80番の水ヤスリで片面を平らにできたら,きめの細かい400番の水ヤスリで,80番の水ヤスリでできた引っ掻き傷を平らに削り取り,滑らかな平面を仕上げます.
この時にも,凸面にならないように注意して削ります.
80番と400番のどちらの場合も,面が平らに仕上がっているかどうかを見るには,面を目の前に持ってきて,蛍光燈などの光を磨いた面に反射させてみます.面が平らでないと,歪んだ蛍光燈が見えたり,明らかに面が歪んでいるのを見ることができます.
4.岩石チップをきれいに水洗し,ホットプレートで乾燥させる
温度は100℃前後で,水気が完全に飛ぶまで乾燥させます.
次の段階のスライドガラスにくっつけるとき,乾燥が不十分な場合には,水分が気泡となってしまい,薄く削るときにチップの一部がはがれたり,うまくいっても観察のときに気泡が邪魔になりますので,時間がかかっても,この段階で完全に乾かしまておきます.
5.岩石チップを接着剤でスライドグラスに貼り付ける
乾燥させた岩石チップを,2液式エポキシ系の接着剤でスライドガラス上に貼り付けます.この時,気泡が入らないように注意します.気泡が入ってしまったら,マッチ棒の先などをスライドガラスに押し付けながら,中心部から外側に向かって動かし,気泡を追い出します.
6.ホットプレート上で加熱して接着剤を完全に固化させる
まだ固まっていない接着剤をホットプレート上で加熱し,完全に固化させます.100℃位で約15分かかります.
ホットプレートがないときは,短時間(5分-3分)硬化タイプのものをつかって固めます.
7.スライドガラスを面取りする
接着剤が完全に固まって岩石チップがスライドガラスに固定されたら,チップをいよいよ薄くなる(約0.02mm)まで削りますが,その前に,スライドガラスの面取りをおこないます.面取りスライドガラスを使っていても,スライドガラスの角で,力の入った水でふやけた手は簡単に切れてしまい,思わぬケガをすることがありますから,400番の水ヤスリで,丹念に面取りをします.
8.岩石チップを80番の水ヤスリで薄くする
岩石チップのスライドガラスの反対側を80番の水ヤスリを使って磨いて,薄くする.この時,削っている面が凸面にならないように注意する.
80番では,クロスニコルの状態の偏光顕微鏡もしくは偏光版にはさんでみて,全体がピンクや青など,どぎつい色ならまだ厚い.黄色っぽい白になるまで,がんばって磨く.片減りや凸面にならないように,あくまで慎重かつ大胆に.
9.400番の水ヤスリで,平らで滑らかな面に仕上げる
顕微鏡または偏光版に挟んでみて,全体が白〜灰色になったら完成です.
10.カバーガラスの代わりにマニキュアを塗る
きれいに水洗した後,ホットプレート上で乾燥させたら,カバーガラスの代わりにマニキュアを塗ります.
ホットプレート上で乾燥させずに,ティッシュぺーバー等でふいてしまったら,紙や布の繊維が付着して,顕微鏡等で観察するとき,非常に見づらくなります.
マニキュアを塗るときは,乾燥後の塗った表面がでこぼこしないように注意します.岩石薄片上に,液をたっぷり含ませた刷毛でべたっと垂らすように塗り,縁にそーっと塗り広げます.中心部はあまりこすらないように.その後,表面張力で岩石平らになるように,自然乾燥させます.
11.ラベルを貼って完成!
マニキュアが乾いたら,ラベルを貼って,資料番号・資料採集地・岩石名を書き込んで完成です.
ご苦労様でした!
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