| 第1図 荒砥沢ダム上流域の大規模地すべり |
2008年岩手・宮城内陸地震によって活動した荒砥沢ダム上流域の大規模地すべりが, 地震以外の通常では再活動しない可能性が高いことは, 林野庁東北森林管理局の山地災害対策検討会の結論(林野庁東北森林管理局,2008)を含めて, 大方の一致するところです.
しかし,2008年岩手・宮城内陸地震のモニュメントのシンボルともいえる140mを超える滑落崖(第2図)に関しては, 崩れる危険性を理由に,3億数千万円の予算で,今年度中に排土する計画がたてられ, 工事が始まろうとしています(第3図).
東北森林管理局の山地災害対策検討会(座長:宮城豊彦東北学院大学教授)では,頭部の背後にある割れ目から,雨水が浸入することによって,地下で,ガラス質凝灰岩の侵食がすすみ,崖が倒壊し,それをきっかけに地すべりが再活動する恐れががあるとして,頭部から割れ目まで深さ30mにわたって排土する計画です.
検討に使用された,GPS計測の,地すべり地に向かう方向ではなく崖や亀裂に平行な方向の不可解な移動を示すデータや,地震発生後半年間のデータでは今後も移動し続けるようにみえても,1年間では減衰曲線を描く伸縮計の計測結果など,滑落崖の50m背後に沿って形成された開口亀裂によって崖が崩れる危険性の評価は,現時点で科学的に正しいと言えるのでしょうか?
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第2図 荒砥沢ダム上流地すべり周辺の3万年以上前の古い地すべりの際にできた亀裂の分布とレーザー測量差分による冠頭崖と背後の亀裂との間の標高変化(東北森林管理局,2008)
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第3図 荒砥沢ダム上流地すべり対策工平面図(案)の一部(東北森林管理局,2008)
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山地災害検討会の結論を含め,亀裂の立体構造の実態も不明なままです.
ましてや, 仮りに崩壊が起こったとして,100%国有林の範囲で, それは 『災害』と言えるのでしょうか?
亀裂の成因や立体構造も不明なまま, 工事を行うことは, 逆に工事関係者が災害に見舞われる危険性もあります.
大規模地すべりの発生から1年以上経過した現時点で, 再度きちんと科学的な検討をおこなった上で, 工事の再検討が必要です.
人類にとっての貴重な自然災害の教科書として,監視体制を整備した上で,できる限りありのままの姿で保存されることを,強く望みます.
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