2008年岩手・宮城内陸地震で発生した PDFバージョン |
2008年6月14日午前8時43分に岩手県南西部の深さ8kmで発生したマグニチュード7.2の2008年岩手・宮城内陸地震によって、宮城県栗原市文字地区の荒砥沢ダム上流域では,移動方向の南南東方向に1,200m、幅約900mの範囲で、移動量が300mを超える大規模地すべりが発生し、頭部には高さ約150mの崖が形成さました. この地すべりは、移動現象が地元の「さくらの湯」大場武雄氏によって目撃されました。このことによって、残された地質現象と実際の運動の対応関係を直接的に明らかにすることが可能になります。 また、調査によって、この値では3万年以上前に活動した大規模地すべりがあり、今回の地震によって再活動したものであることが明らかになりました。 さらに、火山地帯特有の地質構造、生じた大規模な地すべり地形、地すべり末端部での衝突現象、地すべりによる塞き止め湖の発生による植生の変遷、地震時の地すべり地盤の揺れなど、地球科学的にも植物生態学的にも貴重な諸現象・過程を観察・経験できる場となりました。 このように、この地すべり地は地球科学、生態学、自然災害などの貴重な生きた教科書と言うことができます。なお、2009年5月には「日本地質百選」に選ばれています。 地元の栗原市文字地区では、地震発生から1年を迎えた今、この地震災害を地域振興に活用しようと,この地すべり地を荒砥沢キャニオンと呼んで,日本ジオパーク構想の取り組みが始まっています。 一方で、林野庁では巨額の予算で緊急災害復旧工事が計画され、一部は実施されています。 今後、人類にとっての貴重な自然災害の教科書としての保存と復旧のあり方について、早急に、保存すべき対象と保全・対策すべき対象を検討して、議論を深める必要があります。 |
地すべり地の地質図 |
今回地すべりを起こした場所は、過去3万年以上前に、今回よりはるかに大きい規模で地すべりを起こした地域の一部です。 過去3万年前以上前の地すべりでは、今回地すべりを起こさなかった範囲は、谷が広かったために自然停止できたのに対して、今回地すべりを起こした部分は、末端部で、対岸の尾根に衝突して、運動エネルギーを残したまま、強制停止させられた部分です。 衝突した部分では、地層が破砕されて、もろくなり、容易に侵食されやすくなります。そのため、過去3万年以上の間に、深い谷が刻まれて移動できるスペースが確保され、強制停止させられた移動体は、次の移動の機会をうかがっていたということができます。 地すべりは大局的には南東方向に動いたため、地形的には、頭部と谷に沿った北東側の側部が低くなり、末端部が対岸の尾根に衝突して盛り上がりました。 地震前後の垂直・水平変位量
b. 移動体が衝突によって強制停止された場合
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●山地災害対策検討会の断面(『山地災害対策検討会報告書』より) ●川辺ほか(2008)の断面 |
下の図は、東北森林管理局の山地災害対策検討会の報告書に描かれている5つの断面図のすべり面の標高をもとに、すべり面の等高線図を描いたものです。 『山地災害対策検討会報告書』に記載のボーリングデータなどをもとに描いた地すべり面等高線図 |
東北森林管理局の山地災害対策検討会では、頭部の背後にある割れ目から、雨水が浸入することによって、地下で、ガラス質凝灰岩の侵食がすすみ、崖が倒壊し、それをきっかけに地すべりが再活動する恐れががあるとして、頭部から割れ目まで深さ30mにわたって排土する計画です。 古い開口割れ目は,染み込んだ粘土が充填している |
滑落崖の50m背後にできた亀裂は,今後動いて亀裂と滑落崖の間が崩壊する危険性が高いのでしょうか? |
東北森林管理局の山地災害対策検討会で検討した12月3日までのデータでは,今後とも動く可能性を示していますが,今年度のデータを合わせてみると,クリープ変形と同様な減衰曲線を示しています. |
地震で活動した地すべりが, 通常では再活動しないことは, 林野庁東北森林管理局の山地災害対策検討会の結論を含めて, 大方の一致するところです. |
文献: 東北森林管理局(2008.12)岩手・宮城内陸地震にかかる山地災害対策検討会報告書.http://www.rinya.maff.go.jp/tohoku/koho/saigaijoho/kyoku/kentokai/hokokusho.html.林野庁東北森林管理局(2009)『山地災害の記録』. |
平成 年 月 日 【嘆願書】農林水産大臣殿
宮城県栗原市栗駒文字荒砥沢 45-27
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