川の働き:山形大学 地域教育文化学部 生活総合学科 生活環境科学コース 川辺研究室


当日のパンフレット(PDF版)
天童市理科教育センター
平成12年度理科実験講座

押 切 川 巡 検

〜河川の変化と流水のはたらき〜


2000年7月28日

山形大学教育学部地学研究室

川 辺 孝 幸


押切川

 

 押切川は,奥羽山地から山形盆地まで,全て天童市内を流れる全長20kmたらずの小さな河川ですが,上流から下流までの河川の特徴を備えた立派な河川です(第1図).

第1図 山形盆地中央部の地形の概略 (国土地理院発行数値地図50mメッシュより作成)

 乱川へ流入する押切川は,下流部の約2kmの区間では,河川の下流部の特徴を備えていて,ゆるく蛇行した河道をもち,流れが穏やかなために,河道部まで草が茂っています(第2図).乱川との合流点から上流約2km〜約8kmの区間では,中流部の特徴を備えていて,礫が堆積してできた中洲や横洲がよく発達し,増水時ごとに州が成長しています.上流部では,大きな石がごろごろと河床に転がっていたり(第3図),場所によっては直接岩盤が河床に露出していたりします.

 

第2図 下流部の押切川 (天童市成生大町)

 

第3図 上流部の押切川 (天童市上山口)


川の種類―網状河川と蛇行河川

 

 日本の川の多くは,昔から治水によって,堤防で流れる場所が決められています.ところが,人がこのような治水をおこなえなかった大昔やもっと昔の人がまだいなかった大昔には,川は自然の状態で流れることができました.世界中でみれば,このような自然のすがたで流れている川は,今でもたくさんあります.

第4図 山形盆地中央部の地形(等高線の間隔は2m;国土地理院発行数値地図50mメッシュより作成)

 川が自然なすがたで流れる時,川の流れるすがたは,大きくわけると2つのかたちにわけることができます.ひとつは,流れがいくつにも網目状にわかれて流れるかたちと,もうひとつはヘビがうねったように流れるかたちです.専門のことばでは,はじめの方を『網状(もうじょう)河川』,後の方を『蛇行(だこう)河川』と呼んでいます.
 網状河川は,扇状地などの地形のやや急なところでできることが多いようです.
 蛇行河川の方は,盆地の中や平野などの地形の緩やかなところでできることが多いようです.
 山形盆地を流れる川で河床の勾配と川の形との関係を調べてみると,勾配がだいたい4/1000(1000mにつき4m上下する)よりゆるい場所では蛇行河川に,それより勾配の急な場所では網状河川になっていて,押切川の場合も同様です(第5図,第6図).

第5図 押切川の乱川との合流点から標高480m地点までの縦断形

第6図 押切川の乱川との合流点から標高480m地点までの河床勾配

 山形盆地の中では,東側の奥羽山地から流れる馬見ヶ崎川や立谷川,乱川などや西側からの寒河江川などは,きれいな扇状地をつくっていますが(第4図),これらの部分では,昔は"網状河川"として流れていたはずです.でもそれでは,人家が洪水のたびに洪水におそわれますね.それで現在は堤防によって固定されていますから,本来の網状河川をみることはできません.
 一方,盆地のまん中を流れる須川や最上川は,現在ではずいぶん治水事業が進んでまっすぐな流れに直されつつありますが,一部では今でも蛇行河川のすがたをみることができます.

蛇行河川のすがた

 

 蛇行河川は,もともとはまっすぐな流れだったのが,洪水のたびにしだいに流れが曲がっていきます.そしてそのとき,曲がる流れの内側(滑走斜面)のところに石ころや砂・泥などをためていきます.一方,外側の岸(攻撃斜面)は,流れがぶつかることによって侵食されます.このように,蛇行河川では,曲がりくねる部分の内側には砂や泥がたまり,外側では侵食が進むので,川の曲がりはますますきつくなっていきます.
 曲がりがどんどんきつくなっていくと,やがて一つ手前の曲がりとそのつぎの曲がりがくっついてしまうことになります.

第7図 蛇行河川の模式的ブロック図

 そうすると,流れはくっついた部分をとおって,まっすぐな流れに戻ってしまいます.まっすぐな部分の外側に残った曲がりくねった部分は,入り口と出口がふさがれるので池になります.この水たまりは三日月のような形なので,三日月湖と呼ばれています.
 蛇行河川は,ヘビがうねったようなかたちをしていますが,蛇行河川を割って立体的に見てみると,第7図のようになります.
 また,実際の過去の地層で見られる蛇行河川の断面をスケッチすると,第8図のようになります.断面では,しだいに川が横方向に移っていって,最後には三日月湖になるようすが観察できます.

第8図 昔の琵琶湖のまわりの平野を流れていた蛇行河川の断面(約350万年前,三重県上野市白樫の古琵琶湖層群上野累層)

 蛇行河川の場合には,洪水の際,蛇行部では攻撃斜面にぶつかった流れは,川底にそって,内側に這い上がるように流れます.そして,表面に出てきた流れは,下流に流れる流れと一緒になって下流へと流れていきます.このような蛇行部での水の流れは,ら旋流(spiral flow)と呼ばれています(第9図).このような流れの方向は,石ころの配列やベッドフォーム,草や木の倒れている方向などで知ることができます.

網状河川のすがた

 

 網状河川は,扇状地の上面など,河床勾配のやや急な部分に発達します.しかし,残念ながら,現在の日本では古くからの河川改修によってその姿を見ることは,全くといっていいほど見ることができません.しかし,採石場や工事現場の崖の下にあるちょっとした流れでその勇姿のミニチュア版を見ることができます(第11,12図).
 網状河川では,洪水時に,流れは,随所に州をつくりながら,もじどおり網目状に流れます.
 現在の川では,網状河川のような流れがあると,田畑や人家が洪水に襲われるので,堤防が築かれて勝手に網状の流れにならないように仕切られています.堤防で仕切られた中でも,州のでき方を見ていると,このような網状の流れの一端を垣間見ることができます.第13図は乱川の,第14図は国道13号線のすぐ西側(北部小学校南)の押切川での様子です.

砂つぶなどが積もる時にできる模様

 

 川底の表面にうろこ状のもようや洗濯板のようなもようをみたことはありませんか?  砂つぶなどが積もる時には,積もるつぶの大きさや,その時の流れの速さや深さによって,さまざまな模様をつくって積もります.川底のもようは,このような砂つぶが積もる時にできる模様なのです.
 第15図は,水深が25〜40cmの時に,砂つぶの大きさとそれを運んできた流れの速さによってできる模様の形の関係を示したものです.
 いろいろなかたちのものを,第16図に,中身も含めて立体的に示してみました.

【参 考】

 

地層ってなに?

 地層とは...川や波によって運ばれてきた砂や泥,石ころなどのつぶが層になって積もってできたものです.砂・泥・石ころなどのつぶが運ばれてくるのは,ほとんどは大雨の増水した時や嵐の時などです.したがって,地層はいつも積もっているわけではなく,たまにしか積もらないわけです.ですから,間を置いて地層が積もる時があるので,長い間にはしましまの層の積み重なりとして見えるわけです(第17図).

砂・泥・石ころなどのつぶが積もるのは?

 

 大雨の増水の時などに,上流から砂・泥・石ころなどのつぶが運ばれてきます.それらのつぶのほとんどは,もともと上流にあったものが土砂くずれや川の浸食によって川の水に運ばれるようになったものです.
 大きな石ころは川底をころがって運ばれ,泥や細かい砂などは,水の中に浮いて運ばれます.大雨の時に川の水が濁っているのは,水の中に泥や細かい砂などが含まれているからです.
 下流になったり大雨が引きかけてきたため,川の流れが遅くなると,川の流れは,いままで運んできた砂や泥・石ころなどを運ぶだけの力がなくなってしまって,川底に置き去りにしてしまいます.つまり,それらのつぶが積もる(堆積する)ことになるわけです.
 こうして,流れや土砂崩れによってしんしょく浸食された砂や泥・石ころなどが増水した川の流れによって下流に運ばれ,やがては流れが遅くなったために川底にたまることになります.
 このように,砂や泥・石ころなどのつぶの浸食や運搬・堆積は,結局,水の流れの速さ(水の力)に大きくかかわっていることになります.このような水の作用と粒の大きさとの関係をあらわすと第18図のようになります.

地層からわかること

 

 地層から何かを知ろうとしたら,本当はその地層が分布している範囲全体で,3次元的な地層の特徴を知る必要があります.また,化石などの地層中に含まれる情報も必要です.ここでは,ある地点に露出している地層そのものからわかる情報にしぼって見てみます.

1.どのような場所で堆積したか.

 その地層がどのようなところで堆積したか,その環境を知ることができます.
 また,地層の積み重なりから,その場所がどのような環境の変化をとげてきたかをしることができます.

2.地層をつくる粒子がどこからやってきたか.

 地層をつくる石ころや砂粒などの粒子は,地層が堆積した凹みのまわりの高まりから運ばれてきます.あるいはその凹みに流れ込む川によって運ばれてきたものです.つまり,運ばれてきたもともとの山を作っていた岩石が削られて運ばれてきたものなのです.
 したがって,地層をつくっている粒子がどのような岩石からできているか,そして,その岩石と同じ岩石が,地層の堆積している周りの山のどこに出ているかを調べることによって,地層をつくっている粒子がどこから運ばれてきたかを知ることができます.

流水による粒子の運ばれ方

 

 流水による粒子の運ばれ方は第19図のように,転動,躍動および浮流の3つの型に分けることができます.ある流速の流れがあった場合,より大きな粒子では転動によって動いても,やや小さい粒子は躍動で,さらに小さい粒子は浮流で運ばれることになります.
 どのサイズの粒子がどのような運動をするかは,粒子を運んでいる流れの流速によって異なります.

第19図 粒子の運搬形態

 流れが速いと,より大きなサイズの粒子が躍動または浮流によって運ばれます.速い流れは濁流になりますが,この濁った状態が粒子を浮流や躍動で運んでいる状態です.
 逆に流れが遅いと,流れは,小さな粒子であっても,粒子を躍動や浮流によって運ぶことができなくなります.遅い流れは澄んだ流れになりますが,これは水中に粒子を含むことができないからです.

川の流れと堆積物粒子の運搬・堆積の時間的変化

 

 川は,一般的には,通常の流れでは粒子を運搬するだけの流速を持っていません.川で堆積物粒子の運搬・堆積がおこなわれるのは,増水時(洪水時)の時です.
 雨が降ると河川は増水します.やがて雨が止むと,増水した水位は次第に低下していきます.
 このような水位の変化に対応して,流速も増減します.
 したがって,一回の増水によって運搬される粒子の大きさや運ばれ方,堆積する粒子の大きさやたまり方は,増水時から減水時にかけての時間的変化に対応して,連続的に変化することになります(第20図).


第20図 水位・流速の時間的変化と粒子の運動

 そのため,一回の増水から減水までの間に堆積する粒子は,最初は大きい粒子から小さい粒子へと変化していくことになります.増水の最初に堆積した小さい粒子は,増水の過程でだんだん流速が速くなっていくために,後のより速い流れによって侵食されてしまって,残らないこともあるようです.これは,粒子が堆積した場所にどのような流速の変化がおこったかによって違ってきます.つまり第18図のように,堆積する流速の後,その粒子を再移動(侵食)させるだけの流速が起こるかどうかにかかわってくるわけです.

逆級化構造

 

 堆積している一連の粒子の大きさが,下から上へと連続的に小さくなっている場合を「級化」もしくは「正級化」しているといいます(級化構造;第21図).これに対して,逆に,下から上へと連続的に大きくなっている場合を「逆級化」しているといいます(逆級化構造).
 川の堆積物では,このような逆級化構造が,しばしば認められます.とくに,通常では流れが及ばない,河道の外側の高まり(自然の河川では"自然堤防",人工的な改変を受けた河川では"高水位敷")や洲の上面などに堆積した,浮流によって運ばれてきた細かい砂からなる堆積物のほとんどが逆級化構造を示しています(第22図).
 これは,増水して流速が速くなっていく過程で,第20図のように,しだいに粒径のより大きな粒子がその場所に運ばれてくるようになるからです.

第21図 正級化と逆級化 下から上に向かって粒が小さくなるのが正級化,逆に下から上に向かって粒が大きくなるのが逆級化


第22図 山辺町大門の須川河岸に見られる逆級化構造を示す細粒砂層


先頭へ
戻る