山形大学地域教育文化学部生活総合学科生活環境科学コース地学(川辺)研究室
2007年新潟県中越沖地震地質災害調査報告

新潟県柏崎市街地南東部砂丘上面~斜面の被害について

- 砂丘斜面上での液状化被害の公的対策の必要性 -

山形大学地域教育文化学部生活総合学科 川辺孝幸
山形大学地域教育文化学部地域教育学科3年 奥山明洋・黒木 渉
HomePage:https://www.k-es.org/
E-mail:kawabe@jan.ne.jp

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調査日

2007年7月24日.

調査位置

 新潟県柏崎市,JR越後線東柏崎駅より北東の市街地(第1図).
 柏崎市街地中心部のJR越後線を超えた東側の県道152号線周辺~県道522号線までの砂丘上面~砂丘斜面の地域である.

調査位置図

第1図 調査位置図 国土地理院発行1/25000地形図『柏崎』を使用した.


被害の概要

 砂丘上面にあたる県道152号線周辺では,建築年代の古い建物の全壊被害が目立つ.

 これに対して,その南の砂丘斜面(県道152号線より南側の,四谷1丁目,四谷2丁目,長浜町)では,倒壊に至る被害はあまり認められない.その反面,特に斜面の下部では,地面の盛り上がりなど地面の変状によって基礎が傾いた建物や駐車場などが見受けられ,液状化によって変形したことがうかがえる.同様な斜面の被害は,砂丘東縁の斜面上(四谷2丁目東部~長浜町)でも認められる.



第2図 柏崎市比角1丁目,羽森神社裏の砂丘の名残り


砂丘上面の被害

 JR越後線より東側の県道152号線は砂丘の上面にあり,比角1丁目の羽森神社の裏の松林の生えている小高い部分は,砂丘の様子をとどめている(第2図).
 県道152号線沿いでは,建築年代の古い建物や構造的に弱い建物の被害が目立つ(第3図,第4図,第5図).
 また,表層が砂丘砂で地盤強度が低いために,基礎がしっかりしていない鳥居や石碑の構造物では倒壊の被害が見られる(第6図,第7図).
 なお,砂丘上面の道路でもマンホールの浮き上がりが見られた(第8図).宙水などの局所的な地下水によるものとみられる.おそらく埋設工事の際の埋め戻しした堆積物ともとの砂丘砂堆積物との境目が不透水層になった可能性がある.

第3図 柏崎市比角1丁目,羽森神社の倉庫

第4図 柏崎市四谷1丁目の倒壊家屋

第5図 柏崎市長浜町の傾いた土蔵

第6図 まさに神業!的転倒の柏崎市長浜町日吉神社の石碑 塀と鳥居の亀腹との約3cmの隙間に倒れた (https://www.k-es.org/kawabe/torii/).


第7図 柏崎市比角1丁目の羽森神社の倒壊した鳥居 基礎が抜けて転倒した.

第8図 柏崎市比角1丁目,第二中学校グラウンド南の道路に見られた砂丘上におけるマンホールの浮き上がり.


砂丘斜面の被害

 県道152号線沿いの日吉町から長浜町にかけての砂丘東斜面上や(第9図,第10図),県道152号線と県道522号線との間の四谷1丁目,四谷2丁目,日吉町などの砂丘の南斜面では,斜面の下方向へのすべりが認められる.
 これらの表層の変状に伴って倒壊したと思われる構造物は認められないが,斜面下部では,地面の盛り上がりによる駐車場や道路の被害,不同沈下によって基礎が傾斜する被害が構造物に認められる(第11図~第15図).
 盛り上がりの斜面下方では噴砂も認められ,地震動によって,地形よりやや緩傾斜で傾く地下水面によって,地下水位が浅い斜面下部で液状化が起こって表層のすべりが生じたと考えられる.

第9図 東向きの砂丘緩斜面上の,県道152号線の一本北側の通りの交差点に見られるマンホールの浮き上がり.

第10図 交差点から東側を眺めると,道路のうねりが見られる.側溝には東西方向の衝突痕がみられる..

第11図 柏崎市四谷2丁目1の斜面方向の道路を見上げる 倒壊などの強震動による被害は少ない

第12図 第11図の道路の斜面下部での車庫の床の盛り上がり.液状化によって盛り上がったとみられる.

第13図 第12図の車庫の床の盛り上がりの斜面下隣では,噴砂とマンホールの浮き上がりがみられる.

第14図 柏崎市四谷2丁目1の斜面方向の道路の斜面下部の盛り上がり.

第15図 第14図の建物の北側の路地では,路地の路面が盛り上がるとともに,建物の沈下が見られる.建物の基礎は,斜面と反対方向に緩く傾斜した.


砂丘南側の低地の状況

 JR越後線の東側,県道522号線より南側のJR北陸本線までの間の,柏崎市豊町,扇町など国道8号線より北西側では,古い構造物が無いためか,建物被害はほとんど見られない.また,敷地や路面の変状もほとんど見られない.側溝などに軽微な衝突痕が認められるのみである.
 これに対して,国道8号線より南東側の柏崎市北半田では,その北半分は,南側より数十cm~1m高く,国道8号線の北西側に続く微高地になっていて,鯖石川の旧河道沿いの自然堤防堆積物であると考えられる.この微高地上には建築年代の古い建物を含む従来からの集落がある.この集落では,土蔵などの古い建物の倒壊が認められた(第16図).
 南側も建築年代の古い建物は倒壊しているが,低地の低い部分にもかかわらず,地表の変形はほとんど見られない.北側の微高地との境界部や低地内には溜池があるが,地震の後,いずれも20cm程度水位が低下したということであり,この低地の部分での地下水位は高くはなかったとみられる(第16図,第17図).

第16図 柏崎市北半田の微高地上の建築年代の古い建物の倒壊と,微高地と低地の境界にある溜池 水位は地震後に20cm弱低下したということである.

第17図 柏崎市北半田の低地側にある溜池 第16図の溜池とともに,地震の後で水位ガ20cmほど低下したということであり,底には亀裂がみられた.低地にもかかわらず,地下水位は高くはなかったとみられる.



砂丘斜面上での液状化被害の公的対策の必要性

 傾斜した地下水層が大規模な液状化災害を引き起こすことは,藤田(1983, 1986),Kazaoka et al.(1992),風岡(1993),藤田ほか(1996)などによって示されていて,液状化による被害の発生を抑えるには,液状化の根本原因である水抜きの対策をおこなう必要性が示されている.今回の2007年新潟県中越沖地震による砂丘斜面での液状化被害も,発生の範囲は個人で対応できる範囲をはるかに超えた広範囲に及ぶため,公的な機関による水抜き対策が必須である.

文 献

藤田至則(1983) 噴砂現象の規則性とその成因-日本海中部地震における秋田県若美町,秋田港における噴砂災害-.新潟大学災害研年報,5, 5-70.
藤田至則(1986) 傾斜する地下水面に起因する亀裂・噴砂・崩壊等の地質災害.地質学論集,27,95-108.
藤田至則・川辺孝幸・角田史雄・山岸猪久馬・熊井久夫・高野武男・野村 哲・野田貴洋・斉藤明郎・斉藤辰馬(1996) 芦屋川流域の市街地における地震災害-液状化被害の防災に関する提言-.柴崎達雄・植村 武・吉村尚久偏『大震災-そのとき地質家は何をしたか-』,東海大学出版会,43-68.
Kazaoka O. et al(1992)The Process from Occurrence to Expansion of Liquefaction-Flowidization at Earthquake. 29th IGC Abstracts, 1, 79.
風岡 修(1993)地質環境調査の例-液状化・流動化を中心に-.地学団体研究会第40回総会シンポジウム要旨集,91-98.

(2007年8月7日記)


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